神の数式 第2回 宇宙はなぜ生まれたのか 〜最後の難問に挑む天才たち〜

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超弦理論についての書き起こしをしてみました。

Prologue

遥か頂きに浮かぶ美しい物体。 この宇宙のすべてを表す神の設計図だと言ったら、一体何の話が始まるんだとお思いになるかも知れませんねえ。 ここは、天才物理学者たちの世界。 宇宙はどこから来たのかという、人類究極の謎に迫る物語の始まりです。 去年ドイツで開かれた理論物理学の学会。 世界中から天才たちが集まりました。 理論物理学者というのは、その頭脳と数式だけで、この世の森羅万象を解き明かそうという人たち。 今、挑んでいるのは、史上最大の難問です。 この宇宙はどこから来たのか。 ちょっと気が遠くなるような難問ですが、実はその答えのある場所も、わかっているというのです。

そこは、私たちの時空の概念が通用しない場所です。 その謎を解き明かせば、宇宙の始まりを解明できるのです。

  理論物理学者 スティーブン・ホーキング

その場所とは、巨大な重力ですべてを飲み込む、ブラックホール。 光さえも出てこられないその奥底を、もし、数式で書き表すことができれば、宇宙のすべてを読み解けるというのです。 それは、いわば、神の数式。 でも、一体どうやってそんな数式を求めるというのでしょうか。 実は、私たち人類は、すでに神の数式に最も近いといわれる数式を、手にしています。 その一つが、第1回でお伝えした、標準理論。 ミクロの素粒子を完璧に表した数式です。 そしてもう一つ。 広大な宇宙を支配する重力の数式。 一般相対性理論といえば、ご存知の方もいるかも知れません。 この二つを進化させ、一つに束ねることができれば、それこそが神の数式。 アインシュタイン以来100年に渡る、物理学者たちの、見果てぬ夢でした。

宇宙がなぜ、どのように始まったのか、すべてに答える数式。 それこそが、神の数式です。

  理論物理学者 ジョセフ・ポルチンスキー

しかし、神の数式への道のりは困難の連続でした。 数式は、常識を遥かに超えた世界を突きつけたのです。 縦、横、高さと時間。 4つの次元からなるはずの私たちの世界。 なんと、異次元が存在するというのです。 しかも、この世界が、いつ崩壊してもおかしくないという数式の予言まで、飛び出しました。 天才たちの中には、精神に異常をきたす人さえ現れました。

これは神に違いない。 答えに近づきすぎて、神の怒りに触れたのです。

  理論物理学者 マイケル・グリーン

今、世界中で、数式の予言を検証しようという動きが加速しています。 アメリカの巨大国家プロジェクト。 ブラックホールの重力を直接捉えようとしています。 数式は、私たちがまだ見ぬ世界をいち早く示してくれるのです。 宇宙はどこから来たのか。 スーパーコンピューターも解き明かせない、究極の謎。 そこに、純粋な思考だけで挑む物理学者たち。

シリーズ、神の数式。 第2回は、最後の難問に挑む、天才たちの苦闘です。

第2回 宇宙はなぜ生まれたのか 〜最後の難問に挑む天才たち〜

一般相対性理論

アメリカ、コロラド州。 その山中に、物理学者たちの聖地とも言える場所があります。 数々の大発見の舞台となってきた、アスペン物理学センター。 その、50周年を祝う記念の場に、一人の老物理学者が招かれました。 ジョン・シュワルツ、71歳。 今や、神の数式に最も近づいたとされる、今夜の主役の一人です。

アインシュタインの夢だった究極の数式の、有力な候補を見つけました。 私たちが手にしたその唯一の理論で、この宇宙すべてを表せるはずなのです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

シュワルツが生み出した、新たな数式。 超弦理論、または、超ひも理論という名前で、聞いたことがあるかも知れません。

$$ S=-\frac{1}{2\pi}\int_{M}d^{2}\sigma \{ \partial_{\alpha}X^{\mu}\partial^{\alpha}X_{\mu}-i\bar{\psi}^{\mu}\rho^{\alpha}\partial_{\alpha}\psi_{\mu} \} $$

ごくごく簡単に言うと、これまでの常識では、ミクロの点だとされてきた素粒子が、震える弦のような存在だというのです。 何やら変わった世界のようですが、このことは、後でたっぷりお伝えしますので、ご安心ください。 さて、神の数式を追い求めるシュワルツ。 寝ても覚めても、ひたすら数式を考え続けています。 「コンピューターは使わないのか?」って? コンピューターは人間がプログラムした数式に基づいて動いています。 だから、そもそも新しい数式を見つけることは、できないんです。

この世界のすべてを数式で表すことができれば、これほどの喜びはありません。 もちろん、長い時間がかかるでしょう。 でも、この数式こそが、正しい道だと思います。 いつかきっと辿り着くはずだと、私は信じています。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

研究の合間を縫って、時折、山登りをしているシュワルツ。 ロサンゼルス郊外のこの山の上に、神の数式を追い求めるきっかけとなった場所があるのです。 あの、アインシュタインも訪れた天文台。 ここで、すごい発見がありました。 137億年前、ビッグバンと呼ばれる爆発で、ある1点から始まり、膨張している、この宇宙。 そして、その事実は、すでにある偉大な数式によって、予言されていたというのです。 20世紀が生んだ、物理学の巨人、アインシュタイン。 その名を歴史に刻んだ数式が、一般相対性理論でした。 巨大コンピューターもない時代に、遠い宇宙の動きを正確に表すことに成功。 宇宙誕生の謎を解き明かすと、期待されたのです。 一般相対性理論の数式です。

$$ R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}\mathrm{g}_{\mu\nu}R=\kappa T_{\mu\nu} $$

「難しそう」と思ったあなた。 でも、数式の意味は、意外と単純なのです。 式の左側には、空間のゆがみ。 そして、右側には、物の重さやエネルギーを表す記号が書かれています。 つまり、重さやエネルギーがあると、空間がゆがむ、というシンプルな式なのです。

\begin{align} \underbrace{R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}\mathrm{g}_{\mu\nu}R} & = \underbrace{\kappa T_{\mu\nu}}\\
\text{空間のゆがみ} & \quad \text{物の重さ・エネルギー} \end{align}

でも、まだイメージがよく掴めませんね。 説明を買って出たのは、ジョセフ・ポルチンスキー。 神の数式を追い続ける、物理学者の一人です。

このシーツを宇宙空間だと考えてください。

今、この宇宙空間には、重い物質がありません。 だから平らで、ゆがみもありません。 太陽のように重い物質があると、宇宙はこんな風にゆがんでしまいます。 小さな惑星は、このゆがみに沿って、周りに引き寄せられるのです。

  カリフォルニア大学サンタバーバラ校 ジョセフ・ポルチンスキー

みなさんは、重力というと、こんな風に星と星が引き合って回っていると、お考えではなかったでしょうか?

実は、アインシュタインの理論では、星の重さによって、周りの時空がゆがみ、そのゆがみに沿って、他の星が動いています。

その時空のゆがみは、星が小さくて重いほど、角度が急になり、強い力が働くのです。 アインシュタインは、この数式を使い、大胆に予言しました。 巨大な重力が存在するところでは、光さえも曲がる。

つまり、数式が正しければ、大きな星の裏側に隠れて見えないはずの星の光が、重力によって曲げられ、見えるはずだというのです。 そして、予言は見事に的中しました。 これは、皆既日食の写真です。

太陽の周囲に見える星々は、実際よりもずれて見えています。 太陽の巨大な重力によって、遠くの星の光が、曲げられたのです。

人間が生み出した、美しくエレガントな数式と、実際に起きる様々な物理現象の間には、なぜかわからないのですが、非常に深い関係があるのです。 宇宙を理解するには、より高度な数式が必要なのです。

  ケンブリッジ大学 マイケル・グリーン

ブラックホール

宇宙がどこから来たのか。 人類究極の謎を解き明かすと期待された、一般相対性理論。 しかし、思わぬ落とし穴が見つかりました。 指摘したのは、スティーブン・ホーキング。 あの、車椅子の天才です。 全身の神経が麻痺する難病と闘いながら、その頭脳一つで、宇宙誕生の謎に挑んできたホーキング。 一般相対性理論が神の数式ではないということに気づいたのは、ある宇宙の研究がきっかけでした。 巨大な星が爆発した後に生まれ、強い重力ですべてを飲み込むブラックホール。 その最も深い部分こそが、アインシュタインも見逃した盲点だったのです。 アインシュタインの理論を思い出してください。 小さくて、重いほど、空間のゆがみが大きくなりましたね。 では、とてつもなく重く小さな点があったとしたらどうでしょう。 空間はある1点に向かって、無限に沈み込んでいきます。 そう、これが理論上のブラックホールなのです。 ブラックホールの数式です。

$$ ds^{2}=-\left(1-\frac{2GM}{rc^{2}}\right)dt^{2}+\frac{dr^{2}}{1-\frac{2GM}{rc^{2}}}+r^{2}(d\theta^{2}+\sin^{2}\theta\, d\phi^{2}) $$

だいたいの意味を汲み取るとこんな感じ。

$$ D_{istortion}\propto\frac{1}{r^{3}} $$

$r$ はブラックホールの奥底との距離。 奥底に近づくほど $D$ と書かれた空間のゆがみが大きくなるのです。 ところがブラックホールの奥底では、距離 $r$ がゼロ、つまり分母がゼロになってしまいます。

$$ D_{istortion}=\frac{1}{0^{3}}=\infty $$

これは無限大を意味します。 無限大。 それは、数式上、計算不能ということを意味するんです。 つまり、一般相対性理論の数式は、ブラックホールの奥底では、通用しないということなのです。 宇宙誕生の謎を解き明かすと期待された、一般相対性理論ですが、ブラックホールの底だけは、どうしても説明ができなかったのです。

ブラックホールの底では理論は通用しませんでした。 その問題を解消しないと、宇宙の始まりはわからないのです。

  ケンブリッジ大学 スティーブン・ホーキング

宇宙の始まりとブラックホールの底

そもそも、宇宙の始まりと、ブラックホールの底が、どう関係しているというのでしょうか。 これまで、数式が解き明かしてきたのは、実は、ビッグバンから $10^{ -43 }$ 秒経った後からの世界。 137億年前に生まれたとされる、宇宙。 誕生の、まさにその瞬間だけが、人類に残された最後の謎なのです。 そして、ビッグバンの瞬間と、数学上全く同じとされるのが、ブラックホールの底。 謎を解く唯一の鍵なのです。

一般相対性理論と素粒子の数式

宇宙のすべてを記した神の設計図。 物理学者たちがそこに辿り着くためには、無限大の問題を解消しなければなりません。 そこで、物理学者たちに大胆な発想が生まれます。 一般相対性理論に、もう一つの数式を組み合わせてはどうか。 そう、それは第1回でお伝えした、素粒子の数式。 この数式、凄まじく正確で、世界を形作る素粒子などのミクロの物質を、完璧に書き表しているんです。 「なぜ二つの数式を合わせるのか?」って? ブラックホールの底というのは、極限まで圧縮された、超ミクロの点ですよね。 ですから、ミクロの素粒子の数式を合わせることで、無限大の問題を解消し、宇宙誕生の謎を解き明かすことができると考えたのです。

無限大の問題

一般相対性理論と、素粒子の数式。 世界で初めて、二つを合わせ、神の数式を求めようとした物理学者が、ロシアにいました。 普段は人もほとんど訪れない、郊外の森。 そこに、二つの銃弾の跡が刻まれた、墓があります。 旧ソビエト連邦時代に非業の死を遂げた、天才、マトベイ・ブロンスタインの墓です。 82歳になる、ブロンスタインの娘が存命でした。 ブロンスタインは、31歳で亡くなりました。 そのことを、半世紀以上も知らされずにいたといいます。

私の誕生日に逮捕されたのです。 6歳の時でした。 覚えているのは、絵のように断片的な映像だけです。 会話をした時の思い出もないのです。

  エレーナ・チェコフスカヤ(ブロンスタインの娘)

神の数式を求めるブロンスタインに、一体、何があったというのでしょうか。 貧しい家に生まれ、独学で物理を勉強したブロンスタイン。 当時の物理学者にとっても難解だった、一般相対性理論と素粒子の数式を、わずか19歳で完璧に理解していたといいます。 ブロンスタインが挑もうとした、ブラックホール。 しかし、その奥底を計算する前に、まず、証明しなければならないことがありました。 それは、身の回りのミクロの空間で、二つの数式がうまく融合するか、ということです。 ブロンスタインは、空間を、素粒子よりも遥かに小さい、超ミクロのサイズに区切って、そこに働く重力を計算したのです。 ブロンスタインがこの時使った二つの数式を、最新の式に置き換えたものです。

一般相対性理論(重力)

$$ R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}\mathrm{g}_{\mu\nu}R=\kappa T_{\mu\nu} $$

素粒子の数式

\begin{align} \mathbf{Z} & = \int[DA][D\psi][D\phi]\exp\{i\int d^{4}x[\\
& \quad -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}+(i\bar{\psi}\mathbf{D}\psi+h.c.)\\
& \quad +(\psi_{i}y_{ij}\psi_{j}\phi+h.c)+|D_{\mu}\phi|^{2}-V(\phi)]\} \end{align}

え?「難しい」? 大丈夫です。 数式の意味を汲み取ってお伝えしましょう。 この素粒子の式、最初の部分は、ミクロの世界の計算だ、ということを示しています。

$$ \mathbf{Z} = \int[DA][D\psi][D\phi]\exp\{i\int d^{4}x $$

そして、かっこの中は、ミクロの物質や、そこに働く力を表しています。

\begin{align} [& -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}+(i\bar{\psi}\mathbf{D}\psi+h.c.)\\
& +(\psi_{i}y_{ij}\psi_{j}\phi+h.c)+|D_{\mu}\phi|^{2}-V(\phi)] \end{align}

ブロンスタインは、この式に、一般相対性理論を揃えて、組み込んだのです。

\begin{align} \mathbf{Z} & = \int[D\mathrm{g}][DA][D\psi][D\phi]\exp\{i\int d^{4}x\sqrt{-\mathrm{g}}[\color{red}{\frac{1}{2\kappa}R}\\
& \quad -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}+(i\bar{\psi}\mathbf{D}\psi+h.c.)\\
& \quad +(\psi_{i}y_{ij}\psi_{j}\phi+h.c)+|D_{\mu}\phi|^{2}-V(\phi)]\} \end{align}

すると意外な結果が現れました。 分母にゼロが現れたのです。 そう、計算不能を意味する、あの、無限大です。

$$ \frac{1}{0}=\infty $$

正しい二つの数式を合わせたはずなのに、なぜこんな結果が生まれるのか。 ブロンスタインは、さらに精度を高めて、計算を進めました。 しかし、最終的には、無限大は、無限大個発生したのです。 その結果が意味するのは、つまり、こういうことです。 私たちの身の回りの空間は、実は、ミクロに見ると不安定で、無限大を生み出すブラックホールのようなものが、満ち溢れているのではないか。

ブロンスタインにとって、それは、ありえないことでした。 物理学における二つの偉大な理論。 その正確さが、実験でも証明された理論が、一緒にすると、うまく働かないというのですから。 それは、全く解決する方法も浮かばない、難問だったのです。

  ブロンスタイン研究者 ゲナディ・ゴレリック

無限大の難問を解くどころか、身の回りにも大量の無限大が溢れているという、さらなる難問を掘り起こしてしまった、ブロンスタイン。 ちょうどその頃、ソビエトはスターリンの時代となり、恐ろしい事態が起きていました。 100万ともいわれる、知識人や一般人に対する大弾圧です。 自由な発想を持つ科学者にも、その矛先が向けられました。 しかし、ブロンスタインは、そうした事態を気にもとめず、無限大の問題に、頭を悩ませ続けていました。 なぜ無限大が発生するのか。 もしそれが正しいとすれば、この空間もいつか崩壊してしまうかも知れない。 そして、1937年8月、その日々は突然終わりを告げます。 ブロンスタインは、秘密警察に逮捕されたのです。 ブロンスタインはすぐに銃殺され、この森に埋められました。

なぜ、スターリンはこんなことをしたのでしょうか。 彼は、ブロンスタインの個人的な能力を、恐れたのだと思います。 これは決して正当化することができない悲劇です。 ブロンスタインが生きていれば、神の数式の発見に、間違いなく貢献していたはずです。

  ブロンスタインの後輩(2000年ノーベル物理学賞) ゾーレフ・アルフェロフ

宇宙の始まりを論じ、神の数式を求めるような行為が、危険な思想と捉えられたのではないか。 今では、そう考えられています。 ブロンスタイン亡き後、半世紀近くに渡って、神の数式への挑戦は続きました。 ノーベル賞を受賞した物理学者たちが、無限大の問題を解消し、宇宙の始まりを解き明かそうとしたのです。 しかし、どんな天才も、その壁を越えることはできませんでした。

超弦理論

天才たちの前に立ちはだかった、大きな落とし穴。 無限大の謎に挑むことは、人生を棒にふることと同じだ。 そういって、ほとんどの物理学者が、神の数式を目指すことを諦めたのです。

神の数式への挑戦が、大きな転機を迎えたのは、1974年。 なんと、無限大の謎を解く数式を見つけたと謳った論文が登場したのです。

非ハドロン粒子の双体モデル(1974)

プリンストンで知り合った、全く無名の二人の若き研究者。 論文を書いたジョン・シュワルツと、フランスから来たジョエル・シャーク。 二人は当時、誰も見向きもしなかった、時代遅れの分野を研究してました。 それは、弦理論 といいます。 例えば、物質の最小単位である素粒子。 弦理論では、なんと、粒子は点ではありません。 様々な形をした、震える弦のようなものだというのです。 この一風変わったアイデアは、見捨てられた、古い物理学の数式をもとにしていました。

当時の研究は、見捨てられた分野でした。 仕事は全く評価されず、職を恵んでもらっているようなものでした。 担当教授は私のことを、絶滅危惧種だと言っていたほどです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

そうした中、二人は、弦理論を進化させ、超弦理論を提唱。 その数式が、あの偉大な一般相対性理論と、素粒子の数式が解けなかった、無限大の問題を解消することになるのです。 二人は、どのようにして無限大の問題を解いたのか。 一般相対性理論と素粒子の数式を合わせた式です。

\begin{align} \mathbf{Z} & = \int[D\mathrm{g}][DA][D\psi][D\phi]\exp\{\color{red}{i\int d^{4}x\sqrt{-\mathrm{g}}[ \frac{1}{2\kappa}R}\\
& \quad \color{red}{-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}+(i\bar{\psi}\mathbf{D}\psi+h.c.)}\\
& \quad \color{red}{+(\psi_{i}y_{ij}\psi_{j}\phi+h.c)+|D_{\mu}\phi|^{2}-V(\phi)]}\} \end{align}

赤い部分は、すべての粒子が点であることを意味します。 ミクロの世界で飛び交う粒子同士の間の力。 それは、ごくごく簡単に表すと、粒子の間の距離 $\frac{ 1 }{ r^2 }$ と表すことができます。

粒子が点だとすると、互いにぶつかった瞬間、距離 $r$ はゼロになります。

分母にゼロが現れました。 つまり、無限大が現れるのは、粒子同士の衝突の瞬間だったのです。 でも、思い出してください。 超弦理論では、粒子を点ではなく、輪ゴムのような形の弦だと考えていました。 輪ゴムのような形だとすれば、広がりがありますよね。

ですから、粒子同士がぶつかっても、その輪の大きさ以下には潰れないのです。

衝突しても距離 $r$ はゼロにはならず、無限大が出なかったのです。 超弦理論は、半世紀近く物理学者たちを悩ませてきた、無限大の問題を解消しました。 そして、宇宙誕生の謎に迫る可能性を開いたのです。

誰も気づかなかった問題に、私たちは気づいたのです。 それは誰も成し得なかったことでした。 私たちは、全力でこの研究に取り組むべきだと感じ、夢中になったのです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

しかし、物理学の主流派の学者たちは、なぜか超弦理論に目もくれませんでした。 超弦理論は、いまいち信用できない。 なぜなら、あの、一般相対性理論と素粒子の数式とは、かけ離れて見えるというのです。

それだけではありませんでした。 超弦理論の数式を成り立たせる条件が、現実ではありえないものだったのです。 どういうことなのか? 私たちの世界は縦、横、高さの3次元に、時間を加えた4次元の世界だと考えられてきました。 しかし、超弦理論の数式が成り立つのは、この世界が10次元の時だけだったのです。 10次元。 異次元の存在に、多くの物理学者たちも、耳を疑いました。

私たちの世界は4次元です。 しかし、4つではなく、少なくとも10の次元があるということは、残る6つの次元をどう考えればいいのか? それでは、何の解決にもならない。 私はこの理論に、まったく興味をなくしました。

  ユトレヒト大学(1999年ノーベル物理学賞) ゲラルド トフーフト

超弦理論は物理学とも呼べない。 こんな研究をする奴は締め出してしまえ、という声まで飛び交います。 シュワルツはノーベル賞を受賞した物理学の権威からも、度々皮肉を言われたといいます。

彼は超弦理論にとても懐疑的でした。 理論が現実と大きくかけ離れていると感じていました。 彼は、私を度々大声でからかったのです。 「やあ、シュワルツ、今日は一体何次元にいたんだい?」と。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

シュワルツとシャーク、二人の不遇の時代は、さらに続きます。 超弦理論が認められない中、重い糖尿病を患い、故郷フランスへ戻ったシャーク。 なぜ10次元なのか、見えない異次元は一体どこにあるのか。 シャークは、何かに取り憑かれたかように異次元の研究に没頭していったといいます。 町中を、異次元を求めて彷徨うシャークの姿。 次第に仏教の世界に傾倒し、瞑想にふけるようになっていきました。

彼は、とても孤独だと感じていました。 世界で誰もこの問題に取り組んでいなかったからです。 自分がやっていることが果たして正しい道なのか、途方に暮れているようにも見えました。

  元妻 アン・シャーク

そして、シャークは、突然34歳の短い生涯を閉じます。 部屋には、糖尿病の治療薬を大量に注射したあとが残されていました。

シャークは本当にすごいやつでした。 当時、海を越えてやりとりをしていましたが、アイデアが尽きることはありませんでした。 彼の死は、今も信じられません。 生きていたら間違いなく、物理学の進歩に、重要な役割を果たしたはずです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

シャークの意思を継いで、シュワルツは一人研究を続けました。 他の物理学者たちが、華々しい業績を上げるのを横目に見ながら、ひたすら超弦理論にこだわり続けたのです。

最初の論文の発表から10年後、超弦理論に大きな転機が訪れました。 海を隔てたイギリスから、新たな才能が研究に加わったのです。 マイケル・グリーン。 ケンブリッジ大学で、あのニュートンやホーキングも務めた名誉あるルーカス教授職の継承者です。 シュワルツとグリーンの二人は、異次元の問題について、こんな風に考えることにしました。 そもそもこの世が4次元でなければならないという証明はない。 数式が10次元と示しているのだから、自分たちの常識の方が間違っているのかも知れない。 シュワルツとグリーンの二人は、改めて超弦理論の数式が神の数式に相応しいかどうか、確かめることにしました。 それは、超弦理論の数式に、あの偉大な一般相対性理論と素粒子の数式が、含まれているかどうかを検証することでした。 複雑な計算を進めると、まったく無関係に見える二つの数式が、導かれ始めました。 そして、数式に矛盾が生じていないか、最後の計算をしている時のことでした。 496という数字が、数式に次々に現れました。 496。 それは、完全数の一つで、古代ギリシア時代、天地創造と関係があるとして、崇められていた数字です。 その数が一斉に現れたということは、数式の中で、広大な宇宙とミクロの世界が、美しく調和しているということを意味していたのです。

まさに、496という数字でした。 とても偉大な瞬間でした。 その数字について、議論しようとした時、突然、雷鳴が轟きました。 神に違いない。 答えに近づきすぎて、神の怒りに触れたのだと。

  ケンブリッジ大学 マイケル・グリーン

そして、496という数字が現れたと同時に、超弦理論から一般相対性理論と素粒子の数式が、矛盾なく導き出されたのです。

それは奇跡でした。 遥かに高度な数式に偶然辿り着いていたのです。 そこには、奥深い真実が秘められていました。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

シュワルツとグリーンの計算の結果は、瞬く間に世界中に伝わりました。

これは革命だと、とても興奮しました。 宇宙のすべてがわかる、という見方さえ出たのです。

  ハーバード大学 カムラン バファ

.

それは、現実世界すべてを表し得る理論だと感じました。 今でも偶然とは思えません。 それは、一種の天からの声だったのだと思っています。

  プリンストン高等研究所 エドワード・ウィッテン

セオリー・オブ・エブリシング。 万物の理論。 宇宙がどこから来たのかという謎に答える、神の数式ではないのか? 世界中の物理学者たちが、雪崩を追って超弦理論の研究を始めました。 超弦理論は、物理学の最前線に躍り出たのです。

異次元

ところで、多くの物理学者が最終的に、その存在を受け入れた、異次元。 でも、一体、この世界のどこに、異次元が存在するというのでしょうか?s まだ、頭をひねっている方も、きっと、いらっしゃいますよね。 一般相対性理論の説明にも登場した、あのポルチンスキーが、今度は異次元世界を説明してくれるといいます。

多くの物理学者が、宇宙には未知の異次元があると信じています。 次元というのは、動くことができる座標の数を指します。 この綱渡りの女性にとって、綱は1次元。 つまり、線の世界です。 彼女は前か後ろにしか進めません。 でも、この上を這うてんとう虫を見てください。 彼はずっと小さいので、ロープの表面は線ではなく、二次元の面に見えるはずです。

  カリフォルニア大学サンタバーバラ校 ジョセフ・ポルチンスキー

確かに、てんとう虫にとってみれば、綱は二次元。 つまり、より小さい世界に視点を移すことで、隠れていた次元が見えてくる、というわけです。 では、超弦理論が示した10次元の世界は、一体どこに隠れているのでしょうか。 それは、小さな小さなミクロの世界。 原子の1兆分の1の、そのまた1兆分の1。 超ミクロの世界なのです。 そこに奇妙な形で丸まっているもの。

そう、これが物理学者が考える、異次元の一部なんだそうです。 異次元は超ミクロの世界に潜んでいるため、普段、私たちの目からは、見ることができないのです。

ホーキングパラドックス

あの偉大な二つの数式。 一般相対性理論と素粒子の数式を含む、新たな超弦理論。 この数式は、果たして、宇宙のすべてを読み解く、神の数式なのでしょうか? しかし、その行く手には、まだ何やら不穏な空気が立ち込めていたのです。 ここで再び登場するのが、車椅子の天才、ホーキング。 物理学者たちに、ブラックホールの無限大の謎を突きつけた、あの人です。 果たして、超弦理論は神の数式の資格があるのか。 ホーキングが新たに突きつけたのは、ブラックホールの底に潜む、別の難問でした。 「えー、また難問。」 大丈夫。 もう少しのお付き合いです。 新たな難問というのは、ブラックホールの奥底で発生している、謎の熱にまつわる問題です。 ちょっと思い出してください。 ブラックホールの奥底は、極限まで凝縮されたミクロの一点でしたよね。 そこでは、何一つ身動きが取れないはず。 素粒子さえ全く動けないのに、どうやって熱が発生するのか。 これは、ホーキングパラドックスと呼ばれ、物理学者たちの前に立ちはだかった、難問でした。

ホーキングは超弦理論を認めようとしませんでした。 彼の指摘は極めて鋭く、私たちは突きつけられた問題を、なかなか解くことができなかったのです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

ホーキングパラドックスを解くことができない超弦理論。 ホーキングはブラックホールの熱を解くための数式、つまり、神の数式は、存在しないとまで主張したのです。 そうした中、超弦理論に若き救世主が現れます。 度々解説に登場してくれた、あの、ポルチンスキー。 ポルチンスキーは、超弦理論を、さらに進化させることに成功しました。 超弦理論といえば、小さな震える弦のような粒子が飛び交う、ミクロの世界でしたよね。 ポルチンスキーは、学会の合間に立ち寄った、コインランドリーで、一つのアイデアを思いつきます。 洋服は細い糸がたくさん集まってできている。 ミクロの世界でも、素粒子である弦は一つ一つではなく、まとまっているのではないか。

たくさんの弦が集まると、ちょっと興味深い現象が起きるのです。 もっともっと弦を加えてみましょう。 これらは結合し、重要な性質を持つものになります。

  カリフォルニア大学サンタバーバラ校 ジョセフ・ポルチンスキー

数式から導き出されたのは、弦が一つ一つではなく、膨大な数が集まって、膜のように動いている現象でした。

ポルチンスキーの発見を受けて、世界中で、ブラックホールの謎の熱について、計算が進められました。 そして、膜の数式を新たに加えたことで、超弦理論は、ブラックホールの熱を計算することに成功したのです。 それは、こんなイメージ。

ブラックホールの奥底で凝縮し、動かないと考えられていた粒子。 しかし、ブラックホールの底にも異次元が存在しました。 その異次元で、膜上に集まった弦が動き回り、熱が発生していたのです。

ホーキングパラドックスは、科学の歴史に残る、偉大な思考実験でした。 もし、このパラドックスが存在しなければ、私たちは、前に進むきっかけを、掴めなかったと思います。

  カリフォルニア大学サンタバーバラ校 ジョセフ・ポルチンスキー

ブラックホールの謎の熱を解く数式は、存在しないと主張したホーキング。 自らもその問題の検証を続けました。 そして、2004年。 ホーキングは、自ら会見を開き、ついに誤りを認めたのです。

私がかつて発見したブラックホールの謎の熱に関し

ずっと謝りがあったことを報告します

  ケンブリッジ大学 スティーブン・ホーキング

.

私の論文が議論のきっかけとなり、私たちの理解は深まりました。 ブラックホールの底の謎が明らかになり、とても嬉しく思っています。 人類は本当に、究極の理論に近づいているのかも知れません。

  ケンブリッジ大学 スティーブン・ホーキング

.

なぜ、我々は存在するのか。 この宇宙で生きる意味は何なのか。 私たちは、その答えを探しているのです。 なぜ質問しているのかもわからない。 より、哲学的な問いかけが、これからも、続くのです。

  ハーバード大学 カムラン バファ

ホーキングパラドックスを乗り越え、さらに進化した、超弦理論。 この数式で、人類は、いよいよ宇宙誕生の謎を解くことができるのか? 無限大、異次元、ブラックホール。 神の数式を求める物理学者たちの、遥かな道のり。 宇宙最初の姿が、垣間見えてきました。

Epilogue

今、超弦理論の予言を検証しようという動きが、世界中に広がっています。 ヒッグス粒子を発見した、世界最大の素粒子実験施設、CERN。 次なるターゲットの一つが、異次元の発見。 巨大な加速器を使って、ミクロの世界に隠れている、異次元を炙り出そうとしています。 そして、神の数式を求める物理学者たちの戦いの舞台となった、ブラックホール。 世界各国が、その入口を直接観測しようと、凌ぎを削っています。 注目を集め続ける超弦理論。 その生みの親、シュワルツ。 見捨てられていたアイデアから、新たな理論を構築し、神の数式に近づけてきました。 71歳のシュワルツ。 命あるうちに、宇宙誕生の秘密には辿り着けないかも知れない。 そう、思い始めています。

まだ、かなり長い時間がかかるでしょう。 最終的な答えがわからないのは、悲しいことです。 でも、答えがわかってしまったら、それも、悲しいでしょう? 探求を続けることが、何よりも素晴らしいことなのです。

  カリフォルニア工科大学 ジョン・シュワルツ

私たちの宇宙は、どこから来たのか? 最新の数式が描く宇宙は、11次元。 しかも、$10^{ 500 }$ 個という想像を超える数の宇宙が存在し得るという、新たな難問も現れています。 宇宙の神秘を紐解く、神の数式。 それは、人類の、飽くなき探求の、証なのです。

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